ジンバブエ分家頁 ハラレのマダム日記
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その31…親孝行 '95年6月3日(土)
今年の10月を迎えると、2年の任期が終了し、
帰国しなければならない。なんとか第二の故郷に
なりそうなこの国を見て欲しくて、両親に遊びに
こないかと手紙を出した。旅行好きの両親は、手
紙を受け取って1カ月後にやってきた。
実は、EWEは私の父が苦手なんだそうだ。突拍子もないこ
とを言い出したり、やってしまう父を、EWEは
宇宙人のように思っている。だから、両親を招く
ことによく賛成してくれたと思う。EWEは旅費
まで出し、忙しい仕事の合間をぬって旅行の予約
を取ってくれた。
15日間滞在できるというので、そのうち4日
間は、4人で国内旅行に出た。私が「サファリに
行こう」と言うと、父は「動物は動物園で見れる
から行かない」と言った。こういうことを言い出
すからEWEに嫌われるのだ。「人間に飼い慣ら
された動物と一緒にしないで!野生なのよ、野生!」
と言うと、父はいつものように大きな口を開いて
笑った。父は私が小さい時から、私を怒らせて楽
しんでいるようなところがある。
しかし、サファリを一番楽しんだのは父だった。
首から大きな双眼鏡を下げて、いつもジープの助
手席に乗った。水飲み場に集まるシマウマの群れ
を見ると、何頭いるかと数え、象の大群の前では、
「でかい!でかい!」を連発した。キリンを見る
と「首が長いなぁ」と感心している。ロッジの食
事もすべて平らげ、夜は木の上の寝室で10時間
も熟睡した。父は「ジープというオリの中の人間
が、自然界の動物を見るとは…」と嬉しそうに頭
をかかえた。
世界三大滝の一つ「ビクトリアの滝」を見た時、
母は「死に土産ができたわ」と言った。ジンバブ
エとザンビアの国境をまたいで、長さ1.8キロ
の滝が横たわる。滝の水は、150メートル下に
落ちていく。雨期の水量が多いときには、滝から
5キロ離れていても、水の落ちる音が聞こえてく
るという。ナイヤガラの滝には悪いが、比べもの
にならないくらい凄い滝だ!
夕方4人で滝を見に行ったのだが、あの雄大な
姿をもう一度見ることになり、翌朝6時に起きた。
支度をしている私の横で、EWEは行かないと言
う。朝方まで、部屋のテレビで映画を見ていたら
しい。ドアをノックして母がやってきた。父も行
かないと言っているらしい。父は夜中の1時から
4時まで、部屋のベランダから南十字星を眺めて
いたと言う。
「男どもときたら!」と言いながら、母と滝を
見に行った。朝の光りに照らされて、滝の上にき
れいな大きな虹が見える。すると、滝の中から太
陽が顔を出した。真っ赤な太陽だった。母は言っ
た。「来て良かった。この滝も素晴らしいけど、
一番嬉しかったのは、ハラレが幸せそうにしていた
こと」私はなんて言ったらいいのか一瞬困った。
帰国前夜は、EWEが出張で留守だったので、
3人で夜遅くまでしゃべり明かした。「ハラレはい
い親孝行をしたな。お父さんは、こんなにおばあ
ちゃんを喜ばしたことはなかったよ」父のこの言
葉を聞いて、私はとても嬉しかった。8年目にや
っとできた一人っ子の私が、両親の面倒も見ずに
アフリカにきている、そんな気持ちが私の中にず
っとあったからだ。普段の生活は、二人っきりで
寂しいだろう。けれど、私が幸せなのがなにより
の親孝行のようだ。
「毎日が生まれて初めての体験だったよ」と言 い残して、両親は今夜帰路についた。